Top Interview
代表インタビュー
建物に魂を吹き込むことを使命に、信頼を重ね続けて
柏商会は、前身である境政一郎商店の創業から100年を迎えた。
創業以来、戦後のガラス不足やバブル景気の崩壊による建設工事の減少、リーマンショックによる経営環境の悪化、サッシとガラスのユニット化など、経営に影響を与えたさまざまな脅威を乗り越えつつ、ガラス事業を継続してきた。
2009(平成21)年にはサイン事業部を新設し、現在は2事業を柱に経営している。
柏商会はこの先、どのような方向へ経営の舵を切ろうとしているのだろうか。
境昭博代表取締役に、100周年を振り返ると共に今後の戦略と展望を聞いた。
歴史を振り返って実感した
100周年を迎えた重み
まずは100周年を迎えた
今の気持ちを聞かせてください。
100周年という大きな節目を迎えることができた喜びと、その歴史に対する重みを感じています。経営のバトンは創業者の境政一郎、2代目の大浦聰雄、3代目の境紀世治、そして4代目の私へと受け渡されてきました。それぞれの時代で仕事に尽力してきた社員がいます。そして取引先様に支えていただき、今日の当社があるわけです。
この度当社は、初めての社史の製作に取り組みました。歴史をひもといたことで、創業者がなぜガラス工事に結びついていったのかが分かりましたし、創業前には、関東大震災の復興に関わったことを初めて知りました。鴻池組には創業当時から仕事をいただいており、その後まもなく大林組との取引も始まったことや、職人さんの協力があって仕事を遂行してきたことが手に取るように分かりました。ガラスという商材で事業を興し、サイン事業部を新設する2009(平成21)年まではガラス事業部一筋にやってきており、ガラス工事業としては、創業者の境政一郎が奉公した山田商店の次に歴史ある企業となっています。




どの時代も誠意ある人材に恵まれ、「正道」を歩んできた
柏商会が100周年を迎えることができた要因は何でしょうか。
当社の企業理念に「常に時代のニーズに応じた正道を歩み」という一文があります。この企業理念は、私が代表取締役になってから掲げたものですが、当社はどの時代にも、人の手による仕事を誠実に、ひたむきに行ってきたことを「正道」というキーワードで表しています。
当社が行う仕事は、人の技術や仕事への姿勢でニーズに応えていくものです。100周年を迎えることができたのは、どの時代にも素晴らしい人材がいてくれたこと、それに尽きます。いい社員や協力会社の職人さんがいて、経営者も人を大切にすることを心がけてきました。
また、紆余曲折を乗り越えることができたのは、仕事を発注してくださるゼネコンや、ガラスなどの資材を納入してくださるメーカーや卸業者のおかげです。当社に関わってくださっている皆様に対し、深く感謝しております。



仕事にやりがいを感じつつ、
それぞれの人生を充実させてほしい
柏商会がこれからも事業を続けていくために、必要なことは何でしょうか。
技術を高め、鍛え続けていくことに、会社全体で取り組まなければなりません。そのためには、若い人材をコンスタントに採用し、育てていくことが必要です。
窓ガラスやサインには誰もが日頃から接していますが、世間のみなさんが当社の仕事をイメージするのは難しいでしょう。しかし、実際に入社して仕事に携わると、仕事の奥深さや面白さ、やりがいを感じてもらえるはずです。働く中でこの仕事の魅力を知り、定年まで働いてもらえるようにと配慮しています。
ガラス事業とサイン事業には、どのような魅力がありますか。
当社の仕事は、建設工事の中でも仕上げに関わる部分です。ガラス工事業はガラスメーカーが開発し、製造した板ガラスという素材を使い、当社が建物に施工することで窓ガラスになります。サイン工事業は建物にサインを付けることで、分かりやすく使いやすい建物になります。当社の事業はどちらも、建物に魂を吹き込む仕事だと言えるわけで、そこが魅力です。ガラスメーカーやサインの製作会社が作ったものを仕入れて、最終的に本当の意味での製品化を現場で果たすのが、当社の使命です。
当社のメインの仕事は建築物の中でも非住宅に分類されるビルや商業施設、マンションで、建物の形や規模や用途は全て異なります。建築は同じ物が大量にある量産品ではなく一品受注生産で、その建物に合わせて用意されたガラスやサインという部品を施工していくので、でき上がった時には大きな感動を覚えます。
社員のみなさんに、どのような働き方をしてほしいですか。
仕事に対してやりがいを感じつつも、仕事だけを生活の中心にするのではなく、働いて得た給料を生活の糧として、それぞれの人生を楽しんでほしいです。趣味や遊びのために働くと割り切り、プライベートを重視していてもかまいません。プライベートのために、仕事を精一杯頑張るというスタンスでいてくれると、いい仕事をしてくれるはずですから。自らの趣味などの道具を入手するために働き、休日にエネルギーをチャージするのもいいですし、極端な例で言うと、一日中寝ているのが好きならそれでもいいのです。
仕事の中で、落ち込んだりくじけたりすることが誰にでもあるでしょう。私もできる限りのフォローをしますし、上司や同僚もいますが、自分の楽しみを持っている人は、自らの力で立ち直る術を知っている傾向があります。ですから社員には、何らかの楽しみを持ち、当社で長く働き、経験を重ねて技術や知識を高め、若手の育成にも関わってもらいたい。社員の成長が、当社の成長にもつながりますから。
建設業にも働き方改革の波がやってきて、当社では2025(令和7)年に完全週休2日制を導入しました。土日や祝日、深夜でも工事現場は動き続けていますので、現場に入る社員は毎週土日を休みにすることは難しいですが、平日に代休を取ってもらうようにしています。当社は「人生応援企業」として、趣味や遊びの充実を歓迎しています。

時代が変わってもガラスと
サインの仕事を受注できるように
ガラス事業について、今後の展望を教えてください。
ガラス事業の歴史を振り返ると、商流は大きく変わっています。特に大きな変化がカーテンウォールのユニット化。当社ではかつて、超高層ビルのカーテンウォールを受注し、何千枚、何万㎡という多くのガラスを全て、1枚ずつ施工していました。ところがサッシメーカーが合理性を追求し、日本と比べて人件費が安い海外の工場で、サッシにガラスをはめ込む作業までを行い、ビルに取り付けていくようになりました。低層階部分の大型ガラスなど、人力が必要となるガラス工事は当社が引きつづき受注していますが、ガラスとサッシのユニット化が進んだことで、カーテンウォール工事の大部分が、当社の仕事ではなくなっています。
ただ、この時に学んだのは、当社のガラス工事業は必ず生き残れるということ。ユニット化されたのは同じガラスを大量に使用する部分のみで、形状やサイズが特殊な窓ガラスの場合は、現場で1枚ずつ施工しなければなりません。ですので、この仕事は残っていきます。また、商業施設には8mや10mという大型ガラスで、1枚あたり数tもする重さのガラスが使われており、海外でユニット化したものを輸送すると割れるリスクが高いため、日本のガラス工事業者が施工する状況がこの先も続くはずです。デザイン性の高い建物の場合、ガラスの形状が1枚ずつ異なる設計がされるケースもあります。現場で1枚ずつ施工する仕事はなくならないわけですから、その仕事を受注できるよう、当社のガラス事業は、工事の技術力を磨き続けます。
大阪エリアの建設工事について、今後の見通しはいかがでしょうか。
今後も当社がエリアを広げずに事業をしていく場合は、売上が伸びる可能性は低く、ここ数年と同じように推移していくでしょう。うめきた(1期地区、2期地区)プロジェクトのような大規模開発の計画は、2030(令和12)年ごろの開業をめざしている、舞洲の総合型リゾートの大阪IR のみという状況です。大阪IR には当社のガラス事業とサイン事業の両方で出番があるだろうと見込んでいますが、その先の建築計画は、情報は得ているものの大規模開発はなく、当社と取引のあるゼネコンが受注するかどうかはまだ分かりません。
建設業は大阪エリアで見ると、うめきたプロジェクトなど、大きな花火が打ち上がっては終わるようなことを繰り返してきましたが、今後の大規模な市街地開発は非常に少なくなるでしょう。あるとすれば、老朽化しているビル群の再建ですが、かなり先の話です。
ガラス事業の売り上げは、現状維持になると見込んでいます。大阪以外にエリアへ広げて、受注を増やすという方法もありますが、ガラス事業は大阪本社が拠点で、社員は全員近隣に住んでいます。東京や名古屋、福岡など、遠方の都市の仕事を受注することは現実的ではありません。

今後も柏商会が成長していくために、取り組むべきことは何でしょうか。
何年先であっても、建物には必ずガラスとサインが使われるということは確かで、当社の活躍の場は存在し続けます。その時々で、アコーディオンのように事業規模を広げたり縮めたり自由にできるわけではなく、難しい面はありますが、将来のために、どのような状況であっても若い人材の採用を進めていきます。当社の事業は人で成り立っているわけですから、いつ、どのような規模や難易度の仕事の依頼があっても受注できるよう、人を育て、工事力を高めておくことが必要です。社員の技術と経験を活かし、安全で精度の高い工事を行うことで、柏商会に任せておけば安心だと言っていただきたいですし、それがガラス事業の継続と発展につながるのです。
ガラス工事は、建設業界の他の工事と同様に、日本人の担い手が少なくなり、人材の定着が大きな課題となっています。当社にもミャンマーから来ている社員がいますが、建設業界は海外からの技能実習生にも頼っている状況です。今後ますますその傾向が高まると予想されますが、社員の採用活動に力を入れていくつもりです。
また、現在すでに建築分野では、従来人がしてきた仕事をAI に任せる部分が増えてきており、ガラス工事においても、人数を減らした施工が実施されることが考えられます。そして、今後は新しい機械が開発されるなど、施工の方法はどんどん変わっていくと見込んでいます。例えば、現在は10名で施工しているところを、3名でできる機械が開発されるなどです。そういう流れには何としてでもついていかなければなりません。短時間、少人数での施工を実現し、1日でできる仕事量を増やすことで、生産性を向上させることは、めざし続けなければいけない部分です。
少人数で大きな面積の工事をこなせるよう、設備投資や技術力を向上させなければなりません。時代の進化についていける施工力を持つ会社にしておくことが、ガラス工事における未来への礎です。
その点ではサイン事業も同じで、昔はたばこ屋の看板のような、板状のものに文字を書いているものがメインでしたが、立体などいろんな形態のサインが出てきて、デジタルのサインもあります。この先も技術や工事の変化はありますので、新しいものを取り扱えるようにしていかなければなりません。
時代の流れ、発注者や設計者のニーズに必ず応えるということを、当社の2事業部は追求し続けなければ、淘汰されるでしょう。当社と長年にわたりお付き合いくださっている発注元であっても、当社に新しい仕事を打診した時に対応できないことが増えてくると、仕事が他社へ移っていくのは当然のことです。2事業とも競合他社がいる業種で、新しいものを当社で開発するという種類の仕事ではありませんのでなおさらです。この先も、この2事業部の仕事はなくなりませんが、さまざまな新しい要素を取り入れていき、即座にそれを扱える状況にしていくこと、そして常に安全性と品質を確保した高い施工力が求められます。


100年後も生き残る道は
業態を変えず拡大戦略をとること
柏商会の今後の新たな事業展開を教えてください。
当社は創業してからの85年間はガラス工事業1本でやってきました。そしてサイン事業部を新設し、2本柱で100周年を迎えています。では、次の100年の礎を作るために、今何をしなければならないのかということを、常に考えています。
今後の展開として具体的な動きがあるのは、既存事業になりますが、サイン事業を行っている東京支店の受注を増やすことです。現在、東京支店は5名で精一杯の働きをしていますが、東京のマーケットは大阪と比較にならないほど大きく、サイン事業の拡大をめざすとすれば東京には伸びしろがあります。マンパワーや事業拠点の問題もありますので、東京の責任者とも話し合いを重ねて状況を見つつにはなりますが、事業規模を拡大することを狙っています。
もうひとつは、大阪の企業とのM&A です。当社のグループ会社となっていただける建設業界の企業を探しており、ここ数年情報収集を進めてきました。建設業でもさまざまな仕事がありますが、当社のガラス事業とサイン事業との相乗効果を考えると、仕上げ工事にまつわる業種を希望しています。例えば、当社が行う工事の前工程を担う企業であれば、柏商会グループで一括して請け負えるようになり、仕事の依頼主にとっても全部任せられるという点でメリットになるので、受注が増えるでしょう。事業内容や経営状態が良く、将来を担う若手が育っているけれども、後継者がいないという企業を探しています。当社が営業面でその企業に協力し、事業をさらに発展させる形になることを理想としています。
歩んできた歴史を共有し柏商会を守り続けてほしい
最後に、将来の柏商会を担う次世代に期待することを教えてください。
当社はこれまで、時代に応じた施工を行うプロ集団であるという意識を持ち、製品の性能を100%活かす施工をしてきました。それを可能にしたのは、誠実な仕事をしてくれる社員や職人さんです。今のメンバーと共に100周年を迎えることができたことが、私にとって一番の喜びです。
100周年を迎えるにあたり、歴史を振り返る機会ができました。正直、創業のころの話は社長である私も全く知らなかった内容が含まれています。
今のメンバー、特に次の100年を歩む後継者や若手社員には、当社の歩んできた歴史をぜひ知ってほしいです。100年間の苦労や紆余曲折を学ぶことで、柏商会を守っていきたいという思いが湧き、しっかりと仕事をしようという思いが芽生えるなど、心に何らかの変化があるはずです。当社が100年かけて築いてきたものを踏まえつつ、時代のニーズに応える自由な発想力を持ち、未来の柏商会の姿を描いてほしいです。そして当社はこれからも、仕上げ工事を安心して任せていただける会社であり続けます。